「考えても抜け出せない」とき、あなたの脳で起きていること

1. 深夜3時、思考が止まらない

真夜中に目が覚めて、考えなくていいことを延々と考え続けた経験はありませんか。

明日の会議のこと、返信し忘れたメールのこと、3年前にやらかした失敗のこと。

頭の中では「考えるのをやめよう」とわかっているのに、考えることをやめられない。

リラックスしようとすればするほど、意識は逆に覚醒していく。

私も何度もこの経験をしてきました。そしてその翌日は決まって、睡眠不足のまま仕事に向かい、集中力の切れた状態で一日を過ごし、夜になってまた同じループに入る。

この悪循環を、「意志が弱いから」で片づけてしまっていました。

ですが、神経科学者のアンドリュー・ヒューバーマンの説明を聞いたとき、これは意志の問題ではなく、脳の構造の問題だったのだと理解できました。

アンドリューはスタンフォード大学の神経生物学の教授で、彼がPodcastのインタビューで語った一言がこの問題の核心を突いています。

「心で心を制御することはできない。だからこそ、身体に目を向けて心を制御するのだ」

今回のニュースレターでは、アンドリューの知見を軸に、以下の視点でお伝えします。

  • なぜ「考えるのをやめよう」と思っても考え続けてしまうのか
  • 悲しみや喪失感が長引く本当の理由
  • 努力なしに得た報酬が、なぜ人を壊すのか

ここから、具体的に見ていきます。


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2. 脳はなぜ「永遠に続く」と錯覚させるのか

アンドリューが最初に指摘したのは、自律神経系の構造です。

私たちの神経系には、覚醒レベルを上下させる「シーソー」のような仕組みがあります。このシーソーが極端に傾いたとき、つまり強いストレスを感じているとき、あるいは極度に疲弊しているとき、思考は暴走列車のようになります。

ストレスを感じると、心拍数が上がり、瞳孔が開き、筋肉にエネルギーが送り込まれます。身体は「動け」と命令しているのに、実際には動けない状況にいることが多い。会議中、寝室の中、電車の中。この「動けない状態でアクセルが踏まれている」状態が、あの震えるような緊張感の正体です。

ここでもっと重要なのは、思考にも同じ「絞り」がかかるという点です。

ストレス状態では、視覚の焦点が物理的に狭くなります。瞳孔が開くことで、逆に視野が狭まり、まるでストローの穴から世界を覗いているような状態になる。

そしてこれと同じことが思考にも起きます。一つの問題しか考えられなくなる。「もしこうなったら、次はこうなって、そうしたらあれも、それも」と、際限なく連鎖していく。

アンドリューが指摘したもう一つの特徴は、この状態にあるとき、脳が「これは永遠に続く」と錯覚させるということです。

幸せなとき、私たちは「この幸せが永遠に続くだろう」とは考えません。ですが、不安なときは「この不安は永遠に終わらない」と感じてしまう。これは意志の弱さではなく、脳が時間認知を歪める構造的な特性です。

だからこそ、思考で思考を変えようとしても効かない。

アンドリューの処方は明快です。

身体を使って、シーソーの傾きを変える。

散歩でもいい。呼吸法でもいい。冷水のシャワーでもいい。身体にアプローチすることで自律神経系の覚醒レベルを少し下げると、思考の「絞り」が緩み、他の可能性を考えられるようになる。

3. 悲しみとは「地図」が壊れることである

次にアンドリューが語ったのは、失恋や喪失がなぜこれほどまでに苦しいのかという問題です。

彼の説明は、私がこれまで聞いた中で最も腑に落ちるものでした。

私たちの脳の中には、大切な人に対する「地図」があります。この地図は3つの座標で構成されています。

一つ目は「空間」。その人は今どこにいるのか。

二つ目は「時間」。次にいつ会えるのか。

三つ目は「親密さ」。その人は自分にとってどれほど重要な存在なのか。

誰かと別れたとき、あるいは誰かを失ったとき、この地図が崩壊します。

空間の座標が消える。時間の座標が「二度と会えない」になる。しかし親密さの座標は、そのまま残り続ける。

アリゾナ大学のメアリー・フランシス・オコナーの研究によれば、喪失の悲しみの中にある人の脳を画像で見ると、活性化しているのは「悲しみの回路」ではなく、「動機づけの回路」なのだそうです。

つまり、悲しみとは、もういないとわかっている人に向かって「会いに行きたい」という動機が発火し続けている状態なのです。

壁の向こうに美味しい食べ物があるのに、絶対に手が届かない。

動物実験では、まさにこの状態に置かれた動物が、壁に体をぶつけ続けて自分を傷つけてしまうことが観察されています。

人間の場合、壁にぶつかる代わりに、別のことをします。

別れた相手のSNSを何度もチェックする。友人全員に「なぜうまくいかなかったのか」を繰り返し話す。あるいは、怒りや悲しみを燃料にして仕事に没頭する。

アンドリューは、この「仕事への転化」について、自身の経験を踏まえて率直に語っていました。

「悲しみのエネルギーを仕事に注ぎ込むと、一見うまくいっているように見える。仕事の成果が出るから、自分は乗り越えたと錯覚する。しかし、5年後、10年後になぜか疲弊し切っている自分に気づく。それは、空間・時間・親密さの地図の再構築をしていなかったからだ」

感じるべき感情を感じ切ることでしか、この地図は再構築されません。

怒りに変換しても、仕事に転化しても、アルコールで麻痺させても、地図は壊れたままです。

つらい話ですが、ここに逃げ道はありません。

4. 努力なしのドーパミンが人を壊す

アンドリューの話題がドーパミンに移ったとき、もう一つ印象的な指摘がありました。

ドーパミンは一般に「快楽のホルモン」と呼ばれていますが、アンドリューの定義は違います。

ドーパミンは「動機」の物質です。

快楽そのものではなく、「追い求める」という行動を駆動する物質。何かを手に入れたときの喜びよりも、何かを手に入れようとしているときの興奮のほうが、ドーパミンの本質に近い。

そしてアンドリューは、ドーパミンに関する一つの原則を断言しています。

「努力なしに到着したドーパミンは、人を破壊する」

コカインや覚せい剤がなぜ人を壊すのか。それは、何の身体的・精神的努力もなしに、大量のドーパミンを脳に浴びせるからです。

これは薬物だけの話ではありません。

SNSの無限スクロールも同じ構造です。

最初にSNSを開いたとき、新しい情報が次々に入ってきて、ドーパミンが放出されます。しかし数分後、もう新鮮さはなくなっているのにスクロールをやめられない。ドーパミンは出ていないのに、行動だけが続いている。

アンドリューはこの状態を「OCD(強迫行動)に似ている」と表現しています。強迫観念が行動を生み、その行動が強迫観念をさらに強化する。報酬はとっくに消えているのに、やめられない。

「もし私たちが、自分自身を動物実験の被験者として観察したら、この動物は病気だと思うだろう」

アンドリューのこの一言は、私にとって忘れられないものでした。

犬が隅っこで骨を探し続けている姿を見たら、「これは悲しい」と思うはずです。スマートフォンをスクロールし続けている私たちは、まさにその犬と同じことをしているのです。

5. では、何をすればいいのか

ここまで読んで、「結局、身体を動かせということか?」と思われたかもしれません。

半分は正解です。ですが、アンドリューの話から抽出できるアクションはもう少し具体的です。

思考が暴走したら、身体から止める

ストレスや不安で思考が止まらなくなったとき、思考で対処しようとしないでください。

代わりに、呼吸を変えてみてください。アンドリューが推奨しているのは「生理的ため息」と呼ばれる呼吸法で、鼻から二回吸い、口からゆっくり一回吐く。これだけで、自律神経系の覚醒レベルが下がり、思考の「絞り」が緩みます。

冷水のシャワーも有効です。冷水は全身にアドレナリンを放出させますが、自分の意志で行った場合、脳は「これは自分で選んだストレスだ」と認識し、その後に長時間続くドーパミンの上昇が起きます。

感情を「感じ切る」時間を確保する

悲しみや喪失を経験したとき、それを仕事のエネルギーに変換するのは一時的には機能します。ですが、地図の再構築にはなりません。

定期的に、感情を受け止める時間を意識的に設けてください。泣きたければ泣いていい。怒りたければ怒っていい。ただし、その感情を「感じる」ことが目的であって、誰かにぶつけることが目的ではありません。

ドーパミンの使い方を設計する

SNSを開く時間を制限するだけでは不十分です。重要なのは、「努力の後にドーパミンが来る」という回路を強化することです。

朝のランニングの後にコーヒーを飲む。集中した作業の後に好きな音楽を聴く。順番が大切です。報酬が先に来ると、ドーパミンの回路が壊れます。努力が先、報酬が後。この順番を意識するだけで、日常の「やる気」が安定してきます。

6. 身体は、あなたの味方だ

アンドリューの話を通して私が最も強く感じたのは、身体は思考の敵ではなく、味方だということです。

私たちは「心」や「意志」で自分を変えようとしがちです。

ですが、心が暴走しているとき、意志で止めようとするのは、暴走列車の中から列車を止めようとしているようなものです。

身体に目を向けてください。

呼吸、冷水、運動、睡眠。これらは「根性論」ではなく、自律神経系という具体的なメカニズムを通じて、思考の質を変えるための科学的なアプローチです。

そして、感じるべき感情から逃げないでください。

悲しみも、怒りも、喪失感も、感じ切ることでしか地図は再構築されません。逃げれば逃げるほど、5年後、10年後に「なぜか疲弊している自分」に出会うことになります。

私も、感情を仕事に転化してきた側の人間です。だからこそ、アンドリューの言葉が刺さりました。

一緒に、少しずつ変えていきましょう。

それでは。

P.S. アンドリューのインタビューの中で、もう一つ忘れられない言葉がありました。「あなたが幸せなとき、それが永遠に続くとは思わない。でも不安なとき、それが永遠に続くと感じてしまう」と。これを知っているだけで、深夜3時の絶望感が少し変わります。「永遠に続く」と感じているのは、脳がそう錯覚させているだけなのですから。

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アンドリュー・ヒューバーマン(Andrew Huberman)

スタンフォード大学医学部の神経生物学の教授。神経科学に基づいた自己改善のアプローチを発信するPodcast「Huberman Lab」は、世界中で数百万人のリスナーを持つ。恐怖、ストレス、視覚神経科学を専門とし、実践的な科学的知見の普及に尽力している。

デイヴィッド・ゴギンズ(David Goggins)

元アメリカ海軍特殊部隊(Navy SEAL)隊員、ウルトラマラソンランナー、作家。「辺縁系摩擦」の概念を体現する人物として、アンドリューの研究に協力。自らを極限まで追い込むことで恐怖やストレスへの耐性を高める生き方を実践し続けている。

アナ・レンブケ(Anna Lembke)

スタンフォード大学の精神科医。ドーパミンと依存症の研究で知られ、著書『Dopamine Nation』はベストセラーとなった。快楽と苦痛のバランスに関する理論で、現代のSNS依存や行動嗜癖の理解に大きく貢献している。

元動画:「Breakups, Sadness, Focus & Rebuilding Yourself」- Andrew Huberman インタビュー

※本記事は、元動画の内容を日本の読者向けに意訳・再構成したものです。

プロフィール

佐藤康大

佐藤康大

オンラインビジネスの専門家

1億稼いで1億失った男|オンラインビジネスの専門家|稼ぐ・守る・増やす、3つの1000万を達成する1000人を輩出する【Road To 1000】主宰|ビジネスで1000万|望まない人生にNOと言うためのファックユーマネー1000万|好きな人との穏やかな日常への一歩:資産1000万|Udemy講師|Kindleベストセラー作家|VIPコミュニティ運営

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